6月 18th, 2011
127時間
「スラムドッグ$ミリオネア」でのアカデミー賞受賞も記憶に新しいダニー・ボイル監督の最新作。
実話を元に、極限状態に陥った人間の心理を鮮やかに描いた作品です。
あらすじ:アウトドア・ショップに勤める青年アーロンには、週末になると
行き先を誰にも告げずに、ある場所へと向かっていた。
その場所とはユタ州のブルー・ジョン・キャニオン。
人が通ることさえ稀な岩と砂の世界で、彼はたった一人でフリーランニングや
サイクリング、ロッククライミングなどの冒険をするのが楽しみだった。
その日も彼は荒野を駆け回り、トレッカーの女性と地底湖へダイブをして楽しいひと時を過ごしていた。
しかし彼女達と別れた後、一人になった彼を「運命の岩」が襲う。
落石によって岩壁との間に腕を挟まれ、動く事ができなくなったアーロン。
数日分の食料と水しかなく、助けが来るのは絶望的な状況の中
壮絶な戦いが彼を待ち受ける、運命の「127時間」が幕を開ける。
ダニー・ボイル監督の作品を見る時、特に凄いと思うのは彼のバランス感覚です。
「28日後」や「スラムドッグ$ミリオネア」といったエンターテイメント性の高い作品から
こうした一見地味な作品までが、彼の巧みな演出手腕によってスタイリッシュに仕上がっています。
この作品は前述の通り実話を元にした話で、その舞台のほとんどは誰も通らない峡谷です。
登場人物も最初に出てくる人以外は、ほとんど彼の回想でしか出てきませんから
普通に作ると非常に地味な映画になりがちですが、演出を駆使して地味な展開を
飽きさせず見せる事に成功しています。
特にその演出手腕はオープニングで顕著に現れていて、彼が都会の暮らしから
ブルー・ジョン・キャニオンに向かい、自然を満喫するシーンでは様々な映像のモンタージュや
動きのあるカメラ、音楽などの演出によってその場面を楽しく盛り上げます。
そしてその楽しさが十分伝わった後、彼が岩に挟まれ「127 hours」のタイトルが現れた瞬間に
そういったものは全て無くなります。
映像は主人公アーロンの周辺のみで、たまに変化があっても彼の回想や夢の中です。
音楽もなく、人も現れず、ただあるのは彼と岩ばかり。
オープニングで楽しい気分になればなるほど、そのギャップによって静寂と孤独に
強い印象を与える演出は見事だと思いました。
後は彼の壮絶な生きるための孤独な戦いが繰り広げられるのですが、
その戦いは正に壮絶の一言。終盤の脱出シーンでは彼の演出手腕もあいまって
筆舌に尽くしがたい印象を見る人に残します。
主人公アーロンの心の動きも映画の見所の1つです。
最初は「ちょっとした厄介ごと」程度に思っていた彼が岩との戦いを通じて
死を覚悟し、今までの自分の生き方を振り返ります。
岩に挟まれ、助ける人もない状況に追い込んだのは誰にも行き先を告げずに来た
自分であって、他人とのコミュニケーションを避けてきた生き方の報いであると感じます。
そして彼は今までの人生で触れてきた家族や親しい人の愛情を思い出し、
それが一番大事なものだった事を悟るのです。
これはフィクションであれば平凡なメッセージと受けとったでしょうが、
実話だけに極限状態の人間の心理の動きというものを強く感じました。
この報いを与えに来た岩に対して彼が払った「人生の代償」、そして「生きる為の決意」。
巧みな演出と生きるための壮絶な戦いがうまくマッチしたこの作品、
いわゆる小品ではありますが、さすがダニー・ボイルと思わされる一本でした。